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公平な発明対価とは


2005年1月21日
渡辺 日出男


  青色ダイオードの発明対価訴訟は、日亜化学が中村修二氏に8億4千万円を支払う和解で終結した。1年前の200億円の支払いを命ずる東京地裁の判決には多くの問題があった。和解は、問題の404特許を使用していないとする日亜化学の主張に対し、中村氏側がこれ以上闘えないと判断したためであろう。青色ダイオード事業へのきっかけを作った中村氏の功績は同社も認め、特許とは無関係にその報償と考えれば妥当なところかもしれない。


  しかし、今回の和解は企業の事業投資リスクと発明の貢献という基本的な問題について解決策へのヒントすら与えるものではなかった。

  日亜化学が控訴の理由のひとつにした事業成功は発明のみによるわけでなく他の研究者や従業員の総体努力によるものとの論点がひたすら強調されているきらいがある。

 また、和解の2ヶ月前に同社ホームページ上の公開文書で特許法35条の発明人対価を廃止すべきとまで言っていることには賛同しかねる。知的財産立国を目指すこの国とって35条は決して間違ってはいない。問題はその対価の算定である。

  200億円判決後多くの企業が内部規定を作る動きが出たが、報道によれば多くはロイヤリティの取り決めのようである。しかし、これはあまりにも短絡的である。発明者だけが多額の成功報酬を得る取り決めがなされた場合、商品化にいたるまでの長期にわたる発明以外の技術の寄与、それに関連する技術者の意欲、事業化決断者やマーケティングに関与する人達の意欲はどうなるのであろうか。これは控訴をしていた日亜化学の論点と似ているが、視点は異なる。

 今回のような知的とは言いがたい紛争に終止符を打つためにも解決へのヒントを提言したい。

     

  1. 東京地裁判決の問題点
  2.   和解によって今回特に詳細な報道がなかったが、一年前の東京地裁が採用した発明対価の算定方式の問題点を明確にしておきたい。
      東京地裁は、200億円の判決は必ずしも発明者にとって有利なものではないとし、営業利益を基にすればもっと巨額になり得たが、将来の設備投資などが不明だったため証拠が足りなかったとしている。したがって、他社への特許実施料を推測して算定したと言う。この論理には随分おかしなところがある。まず営業利益を基にすることは会社にとって圧倒的に不利である。純利益でなければならないのは投資をしたことのある人は誰でも分かることであろう。更に、他社への特許実施料を推測してというのもかなり無理がある。実際に起こりえたかどうかは全く不明であるからだ。
      判決そのものも、また、判決に対するさまざまの見解が報道されていたにもかかわらず、決定的に欠けていたのは、将来の不確実性の中での事業決断と発明以外の事業行為の貢献についての視点がまったくなかったことである。
      提言するルール作りは、発明の貢献度と"将来の不確実性の中での事業決断と発明以外の事業行為の貢献"の双方を満足するものでなければならない。

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  3. 研究開発のリスクと期待
  4.   一般的に、事業化までのステップを研究、研究開発、早期開発、本格開発、事業化に分類して投資額との関係をみると下図に示すようになるのが一般的である。投資額は右肩上がりのグラフになるが、節目ではジャンプする。直線の傾きとジャンプの大きさはプロジェクトの性質と内容によって変わる。
      大きな決断はジャンプする箇所で起こる。しかし、プロジェクトはどの時点でも中止され得る。中止は、事業開発者の判断の誤りもあるし、不可抗力でやむなくということもある。それまでの投資はまったく回収されない場合が多い。

    話を分かりやすくするために、問題の中村氏の特許404がそのまま製造に使われたと仮定して考える。
      日亜化学の青色ダイオードについてこのグラフを作成してみれば良い。
      ところで、投資期待度はリスクの裏返しである。
      当初、中村氏の進言に基づいて研究開発投資を決定した時は、中村氏の言葉どおりに達成できるかどうかの期待度は低いはずで、3億円とも5億円とも言われる投資は中小企業程度の規模であった日亜化学にとって容易な金額でなく私自身はその経営の勇断に敬意を払うが、失敗してもしようがないという程度のリスクと考えたに違いない。 しかし、研究開発が順調に進めば段階ごとに投資額は膨れ上がり、成功への期待度も大きい反面、大企業の参入や予測とは異なる市場の反応などを考え、リスクも大きいと考えた筈である。事業化を決定した時には投資額はおそらくそれまでの最大と成り、その期待度とは裏腹に、もし大企業が参入したらとか、予定通りに売れなかったらとか考え、リスクは大きいと考えた筈である。
      そこで、提言するのは、最終事業化決断時にルールを定めることである。それは、投資金額と将来の期待キャッシュフローの現在価値とが等しくなる収益率を意味する内部収益率(IRR)の適用である。

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  5. 発明対価算定基準
  6.   事業化決定時から逆算して段階ごとのIRRを設定するのであるが、研究者中村氏への当初の投資期待度には当然低いIRRを適応することになる。当初からの研究開発が成果を挙げて次の大きな投資ジャンプするまでの期間の総投資額、つまり、設備投資や給与と部材費などの研究開発費、に例えばIRR5とか或いは7とかを適用して期待度を表す。ここでは概要を説明するのが目的であるから金額や年数などは筆者が勝手に想定するものを使う。中村氏の関与期間が7年間として総額6億円かかったとしよう。IRRに5を適用すればその後10年間の企業の中村氏への期待総金額は、およそ10億円になる。それをAとする。
      本格的事業開発から事業化までの投資が仮に15億円だったとしよう。期待もリスクも大きいのでより高い例えばIRR15を適用する。事業化までに3年かかったなら、期待総額をBとして、それは23億円となる。更に製造設備などの事業化投資を行って算定時まで商業期間が7年間とし、その間の投資額を40億円とし、期待度とリスクは更に大きくなるので、例えばIRR30を適用する。そうすれば、約250億円になる。それをCとする。
      日亜化学の青色ダイオード事業化以後7年間の純利益の累計額XからA,B、Cを差し引く。それをYとする。そのYを発明そのものの貢献として企業側と発明者への成功報酬として一定の配分比率を定めれば良い。

      年数や投資額については分かりやすくするために勝手に想定したものである上に、投資額は年々発生するものであるがここでは一度に発生したとする乱暴な計算をしている。しかし、考え方自体はお分かりいただけるものと思う。
      また、その支払い期間については、技術の性質によって異なると思われるが特許期間を通じてという訳には行かないことが多いだろう。例えば化学化合物などの特許は長くなるかもしれないが、今回のような製造方法に関しては技術の進展は日進月歩であるから当該特許が使えわれなくなることが比較的早いであろう。本当の意味での基本特許(例えば今回の場合であれば、青色ダイオードの化合物そのものとか、どんな製造方法をもカバーするような上位特許)であれば特許期間中ということもあり得るのは当然である。
      このような考え方に基づくルール作りであれば、企業側としても投資期待度IRRに他の従業員の貢献度が反映されるので公平になるはずである。
      当時の日亜化学にはプロジェクトごとのIRRデータなどなかったであろうが、大きな企業にはあるはずだ。なければ作成すれば良い。企業の平均IRRを目安にするから、発明の貢献度も明確になる。超過分は互いにとってボーナスである。不確定要素の中における事業決断リスクの大きさを踏まえ、投資に対する期待値それをIRRで設定するというルールである。超過分の配分率、さらに関与する発明者間の配分を事業化時点で合意するのである。
      知的財産を有効活用する経営陣の義務化と戦略外となる発明については、早い段階で研究者に対し社外へのライセンス機会を与えるなどの措置を併用することで、より公平になると考える。

以上

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