事業計画の要諦(かなめ)売上げポテンシャルをつかむ


HOMEサイトマップ掲示板E-mail
CHALAZA.NET

わが国の技術評価の課題

  2002年4月(本文)
  2004年12月(要約追加)
  渡辺 日出男
 

  わが国のベンチャービジネスに関する技術評価について私見を申し述べる。行政あげての起業促進を推進する上でわが国のシステムが抱える基本的な問題であると考えてきた。ウェブ・セミナーの柱である市場ポテンシャルの推定理論と手法に敢えて技術評価ユニットと呼ぶ理由も逆説的にその問題を提起する意味がある。ウェブ・セミナー開設を機に、その問題点を指摘しておきたい。

 

同時に、筆者がデュポン社において行った事業開発での技術評価視点を述べる"ロンダックス 事業開発における技術評価"もあわせてお読みいただきたい。論点がより明確になると期待する。

 

要約:
  公的助成金や公的支援を受けようとするベンチャービジネスについて回る公的機関による技術評価は、中小企業振興のための新規事業研究開発コンサルテーションの域に留まっている。加えて、その評価方法の原型は大学・公的研究所・大企業研究所などの研究者によって作られたと推察され、学術的評価に重きを置く文化が反映されている。それは評価項目にある新規性や独創性という言葉に表れる。新規性や独創性の行き着くところは技術方法論になる。ビジネスで重要なのは、それらが反映される商品が競合商品と比べてどの程度の優位性をもたらすかの一点にある。したがって、評価は厳密に競合商品との差別化評価でなければならない。しかも、それは対象顧客の目から見た差別化である。これにはマーケティングの視点が必要である。

 

  ドラッカーは言う。「技術は可能性を示すに過ぎない。それを価値に転換するのはマーケティングのイノベーションである」と。わが国の研究者や技術者がマーケティングを他人ごとと考えるあるいは軽視する風潮はいまだに色濃く残る。経済産業省が推進するさまざまな起業促進が経済活性化に真に役立つ結果を生み出すためにも、ドラッカーが示唆する視点を取り入れた技術評価の確立が急がれる。研究者や技術者のビジネスマインドを醸成するシステムへの変革は、起業家を育む風土を造る基本であろう。

 

サイトマップへ

  本文は下記の項目より成る。

     
  1. 現実の技術評価の実態
  2.  
  3. CTAの技術評価
  4.  
  5. 技術評価の実体験例
  6. 技術評価の権威
  7. 学術的評価視点の根源
  8. 中小企業振興技術コンサルティング
     

  1. 現実の技術評価の実態
  2.  

    ウェブ・セミナー無料サイトパート2、スライドpf2−11で引用した三重県のケースを詳細に引用する。

      ウェブ・サイトによるとベンチャー総合補助金は、三重県内における新産業の創出を促進するため、新製品や新サービスの研究開発、商品開発及び事業化(生産・販売)等に要する一連の経費を補助する制度として、2000年度に創設された。補助金総額は1億円で、1年以内に三重県内で事業化を予定する県外者の応募も可能など、用途要件を緩和した補助制度となっている。以下に引用するのは、2001年10月18日に補助金交付対象者内定の発表資料である。その中にビジネスプランの評価と技術評価に関する記載がある。

      評価の方法として、"提出されたビジネスプランの評価は、一次評価(書類審査)と二次評価(プレゼンテーション評価)の2段階となっており、現に成功している企業家等で構成する「ベンチャー達人委員会」が、下記の項目について評価しました。

       
    1. 新規性・独創性(オリジナリティ)
    2.  
    3. 実現性
    4.  
    5. 市場性(成長性)
    6.  
    7. 社会性
    8.  
    9. 経営者の資質(経営方針・経営哲学・人柄)
    10.  
    11. 支援者の存在
    12.  

    など
      また、上記評価を補足するため、

    全国のベンチャー財団のアンケート調査やヒアリング調査でも、三重県に限らず技術評価については社団法人日本工業技術振興協会 技術評価情報センター(CTA)に委託するのが一般的のようだ。

      これは、2000年に中小企業庁が行ったベンチャーキャピタルに関するアンケート調査の報告からも窺い知ることができる。

      技術・市場性・経営者の能力評価の方法として次のような報告になっている。

    ベンチャー財団における技術・市場性・経営者の能力評価の方法についてみてみると、総じて
    「創造法の審査を活用」、
    「VCの評価を活用」、
    「独自の審査委員を組織している」
    の3つに集中している。

      技術評価に関しては、「創造法の審査を活用」が 71%と最も多い。これは、そもそも創造法(中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法)が「新商品や新サービスの研究開発・事業化を行なう企業」や、「研究開発に熱心に取り組んでいる企業」という点が承認要件となっている事情が反映されているといえよう。全国の主要なベンチャー財団へのヒアリングによれば、「創造法の認定を受けていれば、当然ながら技術は一定水準に達しているはずである」ということが前提となっているように見受けられる。なお、「VCの評価を活用」が41%と第2番目に位置している。なお、必要に応じて公設試験研究機関の専門家や、外部の専門評価機関を活用している。

      ヒアリングによれば、技術評価の外部機関として、CTA技術評価情報センター(社団法人日本工業技術振興協会・技術評価情報センター)を活用するケースが多いようである。なお、同センターは、技術の評価を通じて工業技術全般の振興と、支援、育成等を行なうことを目的に設立された団体であり、新規性、実現可能性、市場性、総合所見について行なっている(1案件当たり 40 万円程度)。

    このページのトップへ

     

  3. CTAの技術評価
  4.  

      それでは、CTAの技術評価がどのようなものかを見てみよう。CTA技術評価情報センターホームページの記載から直接関係する部分について評価例も含めて引用する。

    技術評価について

     CTAでは「新技術(応用開発を含む)」を資産評価と同位置である社会的基準軸とするにあたり、次のような基準と評価体制を設けて業務の推進を実施しております。
     CTAが行う「技術評価」と、一般的な性能評価とは下記の基準で異なるといえます。
     具体的には、次の各項目をもとに行っております。

    評価項目 項 目 内 容
    新規性技術の競争力、技術の優位性
    実現可能性技術の信頼性、技術の確立度
    市場性市場規模、需要の安定性、技術の寿命、市場の成長
    総  合  所  見

    • 評価は新規性はじめ、実現可能性、市場性の各項目を定量的に診断したものを、総合所見にて定性的に審査しA〜Dを決定します。
    • 3つの基準から総合的に審査したうえで、総合所見を下したものをさらに、「技術評価運営委員会」で審議、評価を決定するものであります。
    • 評価の診断結果は下記のように表記します。

    診断
    A新規性、実現可能性、市場性において極めて優れた技術である。
    B新規性、実現可能性、市場性においてかなり優れた技術である。
    C 新規性、実現可能性、市場性のいずれかにおいて優れた技術である。・/TD>
    D 新規性、実現可能性、市場性のいずれにおいても並みの技術である。・/TD>
    E 新規性、実現可能性、市場性のいずれも並以下の技術である。

    技術評価の分類

     CTAの「技術評価」は技術のステップごと、例えば、研究・開発、試作品、半製品・完成品、商品化などのほか、技術開発に伴う技術提携、各種市場調査・経営戦略等の段階などに行うことが可能なシステムとなっております。
     評価は「フェーズI〜III」の他、新たに設けた「フェーズ0」の4つのステップで構成 されております。

    項目 評価・調査内容 評価期間 評価費用
    フェーズ0簡易評価2〜3週間15万円以上
    フェーズI技術力の概要評価4〜6週間30万円以上
    フェーズII実用化への課題抽出と各種調査3〜6ヶ月間別途積算
    フェーズIII戦略・企画立案6ヶ月〜1年間別途積算

    • 上記費用は「一案件」の標準価格であり、技術内容(複数混在等)により異なります。
    • フェーズIは、技術評価事前打診書等を基にした書類による調査・評価(診断)です。
    • フェーズIIは依頼先企業と、調査・評価委員との定期的な連携の下に進めます。
    • フェーズIIIに関しては、フェーズI、同IIにて抽出された課題をクリアする具体策を構築しながら事業プランの具現化に向けてコンサルテーションを展開します。
    • 当センターは「技術評価」を依頼された企業への判断材料=技術評価情報を提供する中立機関であり、投資・融資の成否に関する一切の責任を負いません。

    分類の概要

     CTAの技術評価はフェーズ0,Iのステップに「新規性、実現可能性、市場性」の各項目毎に評価点を下し、さらに、「A〜E」の5段階で診断結果を表記しています。
     さらに、技術評価内容を基に各種市場調査並びに、経営戦略の立案企画、コンサルテーションを行っております。

    フェーズ0=簡易評価  新規性はじめ、実現可能性、市場性の各大項目を評価し、5段階での評価点を解りやすいレーダーチャートにて表記します。評価概要はフェーズIを参照ください。

    フェーズI
     評価対象技術の新規性・優位性、市場ニーズ適合性及び、市場における技術の位置付け、市場規模概要などを記載されるほか、実用化の見通しと将来性を総合的に評価・診断いたします。

     具体的には、新規性では1.技術の競争力、2.技術の優位性をポイントに審査します。特許により保護されているか、他社から知的所有権侵害のクレームの可能性、類似技術との競争力など。

     実現可能性は、1.技術の完成度、2.製品・商品化への課題克服を必要とするか、否かなどを判定します。

     市場性については、1.市場規模、いわゆる新技術と既存・類似製品の対象となる市場、用途開発など解説します。2.需要の安定性では、潜在的あるいは顕在化された需要動向を判断します。3.成長率は、対象技術(製品・商品等)を含めた市場の短中期的な成長率を予測します。このほか市場へ参入するにあったてのアドバイスがコメントされます。

    CTA技術評価表 見本

    (社)日本工業技術振興協会
    技術評価情報センター(CTA)
    技術評価運営委員会
    委員長 唐津 一

    平成 年 月 日付けをもってご依頼にありました技術評価について下記の通り評価結果を報告申し上げます。

         
    技術名空気圧ホームエレベーター
    技術分野建築設備
    開発段階応用技術
    評価年月日平成 年 月 日
       
    評価項目評価点備   考
    新規性70類似の既存技術に対して相対優位性がある
    実現可能性80一部実績あり、改良技術を付加する段階である
    市場性70市場規模、成長性は大きいが競争が激しい
    総合評価点220顧客に受け入れてもらう工夫が必要である

    以上がその概要である。

      「フェーズIは、技術評価事前打診書等を基にした書類による調査・評価(診断)です。」と断りがあるが、評価点がどのような基準によるものか不明である。300点満点に対して220点はきわめて高い評価と言えよう。

    このページのトップへ

  5. 技術評価の実体験例
  6.   筆者が経営していた電子冷却デバイスのベンチャー企業が創造法の認定を受けた時のことであるが、技術評価はCTAではなく、筆者らが申請した神奈川県の公的機関によって行われた。

      申請書類がパスして、ヒアリングとなった。当然、筆者らは緊張して臨んだものだ。しかし、審査員である技術者の方々は、必ずしも筆者らの技術分野に精通しているとはいえず、きわめて友好的な雰囲気で筆者らの説明を聞いていただいたという印象であった。評価をする技術者も評価責任の重さを知っている。地元のベンチャー企業が得るべきものを得られなかったらと考えるのは当然で、この段階では、技術がよほど理論に合っていないとか、どう考えても技術云々を言うに値しないというものをスクリーンするのが目的なのではないかと思ったものだ。

      ベンチャー財団や創造法認定のためにあまりにもいい加減な技術であったら補助金の対象にするわけにはいかないから確認するためということであれば、それはそれなりの意味を持つ。しかし、CTAの例に見る新規性、実現可能性、市場性、総合所見という項目と評価例に見る短いコメントを読むと、これは単なる技術評価ではない。ノートパソコンをアウトソーシングで組み立てるビジネスについて、やはりCTAが行った技術評価の総合所見のフルテキストを読んだことがあるが、純粋の技術評価というよりは、事業や経営に関する評価といったほうがよい所見であった。

      ベンチャー企業にとって、事業性の評価が重要であるからCTAのその所見は正しいと思う。市場性というのも評価項目にあり、市場規模、需要の安定性、技術の寿命、市場の成長性ということが出てくるから、技術評価ではなく事業性評価としたほうがよほどピッタリはまる。しかし、それが技術評価という名の下に行われ、新規性を重視する、あるいは三重県の例で見たように独創性などが出てくるから混乱する。

     1993年頃のことであるが、東京商工会議所が技術評価のお手伝いをしますという新聞報道があった。CTAと提携したと言う記事であった。当時企画していたペルチェ冷却技術による小型冷蔵庫の市場性を探っていたので、新聞を読んですっ飛んでいった。技術評価をお願いすれば市場調査をしてくれると思ったのだ。貧乏なベンチャー企業にとって、市場調査機関に依頼するのは大変な負担なのである。

     筆者は、80年代の後半デュポン社の経営企画室に勤務していた時、新しい技術についての市場調査などもやっていた。SRIや野村総研などの調査機関に依頼すると1000万円単位の費用が必要であった。医療機器事業部が行った250万円の市場調査結果を基に戦略を一緒に考えて欲しいという要望があり調査報告を読んだが、ほとんど使いものにならない情報しかない。新規事業などの市場調査では、そのまま使えるデータベースなどほとんどないのである。マルチクライアントの調査報告書は業界全体の動向を知るにはそれなりの役に立つが、戦略を考えた事業シナリオを立案する場合には不十分である。しかし、想定顧客の購買動機分析や販売促進なども考えながら立案するためには、どうしても拠りどころになるデータが欲しいのである。

      筆者は、小型冷蔵庫を製造するダウンストリーム事業に移行することを考えていた想定製品の一つに温度が広範囲で自由に設定できる温度自在庫とでも呼ぶべき製品があった。これまでにない製品であるので、小型冷蔵庫120リッター以下が90万台の出荷台数などという統計を見てもあまり役に立たない。いわゆるこだわり商品の一種であるから、ワインの温度に敏感な人がどのくらいいるとか、男性で料理を趣味とする人や道具にこだわる人がどのくらいいるのか等々の手がかりを求めてサライなどの編集者に話を聞いたり、ワイナリーで話を聞くとかするのである。

      他の製品を企画した場合など、対象顧客群がトヨタのアリストを買う人と類似性があるのではないかと考え、その人たちとの購買動機に共通するものがあれば、それもマーケティング戦略のヒントになるかもしれないなどと調べるのである。市場調査会社の優秀なところは、そのようなニーズを伝えると、その場合は車ではなく、むしろ高級システムキッチンの購買動機を調べたほうが参考になるなど適切な助言が出てくる。いわゆる調査デザインである。そのデザインが実は大変なのである。市場調査は決して簡単ではない。

      いくらなんでもここまではやらないだろうとは思ったが、東京商工会議所で担当の方に技術評価の中味を聞き、「ところで、市場調査はどうやるのですか?」と尋ねた。一瞬、間があって、「市場調査はやりません」と言う。「だって、市場性についても評価すると言っているのに調査もせずにできるのですか?」と聞くと、当時で160人とかいう数字であったと記憶しているが、評価をする人たちの名前と所属する大学、研究所、大企業などがずらりと並んだパンフレットを示して、「優秀な人たちがやりますので大丈夫です」と言ったのだ。それ以上議論しても迷惑と思いお礼を言って帰ってきたが、混乱すると言った意味がわかるであろう。

      また、もっと直接的な技術評価に関する筆者の経験であるが、1993年に当時通産省の債務保証団体VECに対し、アンモニアを冷媒とする吸収式冷蔵庫よりも効率の良い小型冷蔵庫を開発することを目的として開発資金の債務保証を申請した。当時の三和銀行の薦めによるもので、数々の冷蔵試験データや冷凍能力について1リッターの水を凍らせた氷の写真も添えた。しかし、銀行から出向していた担当者から、"ペルチェで氷は出来ないし、効率も悪いから冷蔵庫は出来ないという有識者の事前技術評価で却下されました"という答えが返ってきた。大学の先生達ですかと聞くと口を濁す。"直接お会いして説明させて下さい"とお願いしたが、秘密会なので出来ないということであった。どのような人たち拠って評価されたかは分からないが、そのような断わられ方をしたのは事実である。

      当時ペルチェ技術に対する一般的な認識は、電気を熱に変える半導体の性能が格段に向上しなければ、エネルギー効率でフロンガス(当時)を用いるコンプレッサー式冷蔵庫に敵わないという常識がまかり通っていたのは事実であるし、それが常識となっていたことは筆者らも理解していた。しかし、騒音が発生しないということでホテルなどに使用されている吸収式冷蔵庫のエネルギー効率は入力電力に対する吸熱量(冷却能力)が30%程度と低く、筆者らはペルチェによって50から60%という効率を達成する自信があった。騒音もなく、コストにおいても吸収式に比べれば安くできるのである。

      その回答をもらった時には、何か他の手段で凍らせた氷を断熱ボックスに入れて写真を撮り、冷却実験データも捏造したものと疑われたのかと暗澹たる思いであった。

      その3年後、NEDOのプロジェクトとして筆者らが開発したプロトタイプ冷蔵庫(放熱に水冷式を採用)は吸収式をはるかに凌ぎ、小型のフロン冷蔵庫と同等の効率となった。この技術によって現在実用化されている空冷式電子冷却小型冷蔵庫のエネルギー効率も吸収式を凌駕するもので、軽量で温度制御性が良いため、ビジネスホテル、家庭の寝室用や入院患者用レンタル冷蔵庫として販売されている。

      債務保証であるから、「お前の経営では、お金が戻ってこない心配があるから債務保証はできない」という話なら悔しくても理解できるが、技術について事実を事実として受け止められない有識者あるいは専門家と言われる人による技術評価は生死をかけているベンチャー企業にとって実につらいものである。

    このページのトップへ

     

  7. 技術評価の権威
  8.   筆者の例のように、狙うマーケットや事業戦略を問うこともなく、提出したデータを真剣に検討したとも思えない"世の常識"技術評価は、常識を破ることがその使命の一つでもあるベンチャービジネスを無為に潰すことにもなる。

    技術評価は技術ベンチャービジネスについて回る。補助金や創造法などの認定のための基準を明確にする必要があると思う。また、事業性を評価するのであれば、その定義、評価基準、評価手法などについても明らかにしなければならないであろう。そして、それが起業家に対して正しい事業戦略を考えさせるものであってほしいと願う。

      評価という言葉に "誰か偉い人が判定する" というニュアンスがあることは否めない。偉い人を納得させてはじめてベンチャーの技術ではないかという異論も出そうである。ただ、不確実性を相手にするビジネスに"偉い人"がいるのかという根本的な疑問が残る。最近これも流行言葉の"技術の目利き"というのも同じだ。これは、本当に嫌な言葉だ。どこかに言い出しっぺがいるはずだが、いつの間にかそんな人がこの世界にいるかのように使われている。一方で、起業促進のために行政は様々な資金的支援を行おうとし、片方では、事業そのものやベンチャービジネスにほとんど経験もなく、そして、技術を事業戦略との関連で見る感覚を持たない"技術エスタブリッシュメント"ともいうべき人たちの"合格通知"を貰わなければ支援も受けられないという図式なのである。

      税金を使う行政の支援であるから仕方ないかと醒めた目もあるが、この構図の中に今後行政が進める起業促進の大きな妨げになる学術的思考から抜け出せない研究者メンタリティや行政文化の権威主義があると懸念する。

      その懸念が懸念にとどまらないことを明らかにするために、現在のベンチャー企業に対する技術評価の基準が一体どのようにして作成されてきたか筆者の推論を述べてみたい。

    このページのトップへ

     

  9. 学術的評価視点の根源
  10.   現在の経済産業省の前身である通産省の補助事業の一つに研究開発型中小企業に対する3分の2補助の制度などがあった。その認定のために何らかの技術の妥当性評価が必要となったのであろう。事業性などの評価は、占い師がやるようなもので誰も手がつけられない。技術の評価なら、大学でも公的研究所などでも行っている。また大企業の研究所でも行われている。そして、いわゆる有識者という人たちが集まり、技術評価基準の原型が作成されていったと思われる。研究主体の有識者が評価方法を検討すれば、学術的な視点が出てくるのは当然と言えば当然である。それは、わが国の研究開発者の評価システムに深く根付いている。公的研究所のような純粋な研究機関ばかりでなく、大企業の場合でもそうである。

      大企業における研究開発システムのあり方を技術進展と戦略の関係から歴史的に分析し、技術戦略が21世紀の企業の浮沈を握るとして統合技術戦略の採用を強く提言する「最強の研究開発戦略システム」(赤塔政基著 ダイヤモンド社1996年)という労作がある。

      赤塔氏は、達成した成果の技術的な実質的価値を、技術的革新性や学術的評価を意味するのが一般的とし、大企業でも時として、実質的効果だけを評価の中心にすべきだとの意見があることを指摘している。しかし、氏は、企業が統合的な技術戦略を立てるのであれば、経営の立場や戦略の立場から技術や研究開発を見ることが原則だから技術的実質価値だけを中心にすべきではない。社会一般や学術的には価値が低いものでも、当該企業にとって重要でないとは言い切れないので、戦略としてあらかじめ合意された目標は評価の要素となって当然で、それが、大学や公の研究開発機関とは違った「企業の戦略としての研究開発」の評価の特徴としている。

      注目すべきは、大企業でも大学や公的研究所と同じように、技術的革新性や学術的評価が研究開発評価の重要な要素になっているという事実である。

      この学術的評価を重視するメンタリティが、大学・公的研究所や大企業の研究開発者が起業をする時の最大の問題なのである。筆者が指摘したいのは、技術評価が同じメンタリティで行われていれば起業する研究者や技術者の事業に対する意識改革を遅らせることになるという懸念である。
      これがわが国の技術評価の是正すべき第1の課題であると考える。

    このページのトップへ

     

  11. 中小企業振興技術コンサルティング
  12.   もう一つの課題は、引用したCTAの評価フェーズの示唆するものである。技術評価分類の説明は以下の通りであった。

      "CTAの「技術評価」は技術のステップごと、例えば、研究・開発、試作品、半製品・完成品、商品化などのほか、技術開発に伴う技術提携、各種市場調査・経営戦略等の段階などに行うことが可能なシステムとなっております。 評価は「フェーズI〜III」の他、新たに設けた「フェーズ0」の4つのステップで構成されております。"        
    項目評価・調査内容評価期間評価費用
    フェーズ0簡易評価2〜3週間15万円以上
    フェーズI技術力の概要評価4〜6週間30万円以上
    フェーズII実用化への課題抽出と各種調査3〜6ヶ月間別途積算
    フェーズIII戦略・企画立案6ヶ月〜1年間別途積算 
       フェーズIは、技術評価事前打診書等を基にした書類による調査・評価(診断)です。
      フェーズIIは依頼先企業と、調査・評価委員との定期的な連携の下に進めます。
      フェーズIIIに関しては、フェーズI、同IIにて抽出された課題をクリアする具体策を構築しながら事業プランの具現化に向けてコンサルテーションを展開します。"

    とある。

      このフェーズを改めてよく読むと以下のような構図が浮かんでくる。

      「中小企業が下請け的な立場から脱皮するためには新規事業によって体質改善を図る施策が重要である。新規事業は各種の補助金や融資制度によって支援できる。しかし、中小企業には十分な研究開発者もいなければ、新規事業を立ち上げる人材も不足している。新たな技術によって新規事業を企画する場合には、技術開発から事業化までの一連の流れを支援することが必要である。」と行政は考えた。そのためには中小企業の費用負担も考えて次のような段階ごとの過程を考えた。

       
    1. 第1段階では、"アイディアとして持っている技術について大掴みな助言をしましょう"(フェーズ0)

    2.  
        (その助言を参考にしながら、新規事業として開発に乗り出すのならば) 
    3.   第2段階として"開発に要する技術との対比で現在の技術力で足るものかどうかを評価してあげましょう"(フェーズT)
       
        (更に進める場合には)
    4.   第3段階として、"研究開発プログラムを立案するための課題や開発に関する助言をしてあげましょう。"(フェーズU)
       
        (事業化にあたっては) 
    5.   第4段階として、"事業戦略やマーケティング戦略の立案を指導しましょう。"(フェーズV)
    6.  

      このように読むと、CTAのフェーズ0からフェーズVとピッタリ一致する。つまり、これは新規事業に進めるかどうかわからない技術の開発コンサルテーションを行うための技術評価なのである。そして、このフェーズの進行は、補足パート・スライドfs−11で述べたリニアー・プロセスそのものである。

      そして、このフェーズ0やフェーズTがベンチャービジネスの技術評価となっているから話がわかりにくくなる。
      ベンチャービジネスとして起業する場合、調査が十分かどうかは別として、フェーズVの戦略や企画を行った上で必要な開発を行うのが普通である。少なくとも意識の高いベンチャービジネスはそうである。しかし、ベンチャービジネスの技術評価の実態は、依然として新規事業を計画する中小企業の研究開発コンサルテーションを行うための技術評価の域に留まっているのではないかと考えざるを得ない。

      実は、ベンチャービジネスの定義があいまいなことも問題なのである。わが国のベンチャーキャピタルがモデルとした1970年代の米国ベンチャーキャピタルのベンチャービジネスの定義は明確であった。"技術優位性を持つ製造業で急成長が見込まれるもの"という狭いものである。しかし、当時の日本の製造ベンチャーは、米国事情とはまったく異なり、大企業のスピンアウトや大学や公的研究所の研究者・技術者によるものがほとんどない状態であった。80年代には、リース業やサービス業がベンチャービジネスの代表となり、更に90年代のアプリケーション主体のITベンチャーブームとなって技術はどこかに行ってしまった感があり、今では起業はすべてベンチャービジネスである。

      しかし、わが国にもやっと米国やサッチャー時代の英国のような高い技術を持つベンチャービジネスの出現が期待される時代に突入する様相が出始めている。この時代にいつまでも中小企業の研究開発コンサルテーションのための技術評価を続けていくわけにはいかないだろう。わが国が歴史上初めて本物の技術ベンチャーを創出しようとする時代の技術評価をどうするか。これが第2の課題である。

      学術的評価視点が色濃く残る技術評価およびリニアー・プロセス的な開発を計画する中小企業支援の技術評価がそのままベンチャービジネスの技術評価になっているのがわが国の技術評価に関する二つの問題である。

      David J Gladstone が1983年に出版した"Venture capital handbook"の第7章 Due Diligence(調査)で、"製品のユニーク性は顧客の購買に影響するものでなければ、ベンチャーキャピタリストにとって意味がない" (原本165ページ)という指摘が、技術評価のすべてである。つまり、技術斬新性や学術的な意味合いで実質価値が高くても、市場価値或いは間接市場価値で評価しなければ現実的ではないということになる。これがベンチャービジネスにおけるもっとも必要な技術評価の視点と考える。

     
 

以上
 


このページのトップへ


HOME (事業計画の要諦(かなめ)売上げポテンシャルをつかむ)